「奔敵者」三例

 『北支に於ける奔敵事犯と之が警防対策』には、具体例として三名の「奔敵犯」の事例もあげられている。この三名は全員明らかに意識的に「奔敵」した例らしい。


○春第二九八二部隊現役兵一は敵側の「日本兵を優遇す」の壁書宣伝を盲信し中共冀中軍区に投入し在支日本人反戦同盟冀中支部に参加す
○衣第四二九六部隊森山隊現役兵一は作戦中敵側(共産軍)の捕虜と知合ひとなり同人より共産軍内の日本軍将兵の優待状況を聴取するや奔敵を決意逃走せんとし逮捕せらる
○朧第五×三三隊藤村隊現役兵一は班内に於いて同年兵間に「日本兵にして敵軍に投入せば優待せらる云々」との言動を××し敵軍に投せんと戦友の小銃、実包及中隊長の軍衣袴編上靴を窃取し軍用自動車を敵側に提供せんとの意を以って操縦し哨所を欺き通過敵地区に向け逃走中を逮捕せらる

 ・・・・・・三人目がハンパない。まあ、三人目は特に極端な例だろうが(こんなのが普遍的な例だったらとっくに日本軍は崩壊している)。

 憲兵隊がこの三例を出したのは
一例目→敵の宣伝には気をつけろ
二例目→敵の捕虜と兵士の接触に気をつけろ
三例目→そもそもこういう奴は気をつけろ
ということだろうか?

 なんにしろ、ただ「兵一」と表記される日本兵たちの語られざる意外な行動がふいに顔をのぞかせてくるものだから、この手の史料はあなどれない。